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【遺言文例とルール】子どものいないご夫婦が今すぐ手書きできる、自筆証書遺言(実践編)

【遺言文例とルール】子どものいないご夫婦が今すぐ手書きできる、自筆証書遺言(実践編)

前回「【遺言文例とルール】子どものいないご夫婦が今すぐ手書きできる、最もシンプルな自筆証書遺言」では、最もシンプルな自筆証書遺言の書き方をご紹介いたしました。万が一の際、お互いにすべての財産を配偶者へ確実に遺すためのファーストステップとして、非常に有効な備えとなります。

しかし、相続実務においては、単にお互いが全財産を相手方に遺すだけの遺言では、将来的に別の大きな問題が生じることがあります。そこで検討すべきなのが、夫婦が互いに遺言を書き合う「交差型(たすき掛け)遺言」と、その先に必要となる「予備的(補充)遺言」を組み合わせた設計です。

今回は、なぜお互いに遺言を書くだけでは不十分なのか、子どものいないご夫婦が将来のトラブルを完全に回避するために知っておくべき実務的なポイントについて、換価処分を伴う「清算型」の具体的な文例を交えて解説いたします。

1. 交差型(たすき掛け)遺言と「二次相続」の盲点

夫婦が互いに「自分が先に死亡したときには、すべての財産を生存配偶者に相続させる」という内容の遺言をそれぞれ作成しておくことを、実務上「交差型遺言」あるいは「たすき掛け遺言」と呼びます。

子どもがいないご夫婦の場合、遺言書がなければ残された配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹(または甥・姪)との間で遺産分割協議が必要となりますが、この交差型遺言を夫婦双方が用意しておくことで、どちらが先に亡くなったとしても、まずは生存配偶者に確実にすべての財産を集中させることができます。

しかし、この単純な交差型遺言には、実務上の重大な限界があります。それは、「生存配偶者が財産を相続した後のこと(二次相続)」が考慮されていない点です。

【実務上でよく起こる典型的な問題】 子どもがいないご夫婦で、単純にお互いに「全財産を配偶者に相続させる」という遺言書だけを作成していたとします。 その後、夫が先に死亡し、遺言に従って妻がすべての財産(夫婦で築いた自宅や預貯金)を相続しました。 それから間もなく、妻も他界してしまった場合、妻が作成していた「すべての財産を夫に相続させる」という遺言は、夫がすでに死亡しているため原則として効力を生じません。

この場合、妻の遺言は失効するため、妻が夫から相続した分も含めた全財産は、妻の法定相続人(妻の兄弟姉妹など)がすべてを相続することになります。 すると、夫側の親戚から「夫が一生懸命働いて住宅ローンを完済したマイホームなのに、すべて妻側の親族だけに引き継がれてしまうのは納得がいかない」と不満が噴出し、親族間で感情的な対立や紛争に発展してしまうケースが後を絶ちません。

2. 二次相続のトラブルを未然に防ぐ「予備的(補充)遺言」

こうした「引き継いだ財産が、最終的に一方の親族側だけに偏って流れてしまう」という悲劇や親族間の対立を防ぐために、遺言書の中に「予備的遺言(補充遺言)」を必ず盛り込んでおく必要があります。

予備的遺言とは、「主位的」に定めた配偶者への相続が、配偶者の先逝や同時死亡などによって実現しない場合に備え、「その場合には、財産を誰にどのように譲るか」をあらかじめ予備的に定めておく仕組みです。

特に、引き継いだすべての遺産を一度現金化(換価)し、そこから生前の未払債務や葬儀費用等を差し引いたのち、夫側・妻側のそれぞれの親族へ指定した割合でクリアに分配する遺言を「清算型(換価分割型)の予備的遺言」と呼びます。これをしておくことで、誰に何をいくら相続させるかが明確になり、実務上の不都合や分配を巡る親族間の争いを完全に防ぐことができます。

3. 【自筆証書遺言】清算型予備的遺言付き交差型遺言の具体的な文例

それでは、子どものいないご夫婦がご自宅で手書き(自筆)で作成できる、清算型の予備的遺言を含めた交差型遺言の具体的な文例をご提示します。

今回は、鈴木清(夫)と鈴木花子(妻)のご夫婦をモデルとし、夫の親族には弟の鈴木明、妻の親族には姉の山本月子がいるケースを想定しています。 ※必ず夫用、妻用で「別々の用紙」に1通ずつ完全に分けて作成してください。

① 夫・鈴木一郎が作成する遺言書の文例

遺言書

第1条 遺言者(鈴木一郎)は、その所有する不動産、預貯金、金融資産を含むすべての財産を、遺言者の妻鈴木陽子(昭和○年○月○日生)に相続させる。

第2条 妻鈴木陽子が遺言者の死亡以前、または同時に死亡した場合には、前条に代えて、前条記載のすべての財産を、後記第3条記載の遺言執行者において処分・換価させ、その換価金から遺言者の一切の債務、葬儀・埋葬費用および遺言執行に関する一切の費用を支払った後の残金について、その4分の1を妻の姉山本月子(昭和○年○月○日生)に遺贈し、その余のすべてを遺言者の弟鈴木二郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。

第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、第1条の場合には妻鈴木陽子を、第2条の場合には遺言者の弟鈴木二郎を指定する。

2 第2条の場合における遺言執行者は、不動産の売却処分・登記手続き、預貯金その他一切の金融資産の解約、名義変更、払戻しなど、本遺言の執行に必要な一切の権限を有する。

令和〇年〇月〇日 遺言者 鈴木 一郎  (実印)

② 妻・鈴木花子が作成する遺言書の文例

遺言書

第1条 遺言者(鈴木陽子)は、その所有する不動産、預貯金、金融資産を含むすべての財産を、遺言者の夫鈴木一郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。

第2条 夫鈴木清が遺言者の死亡以前、または同時に死亡した場合には、前条に代えて、前条記載のすべての財産を、後記第3条記載の遺言執行者において処分・換価させ、その換価金から遺言者の一切の債務、葬儀・埋葬費用および遺言執行に関する一切の費用を支払った後の残金について、その4分の1を夫の弟鈴木二郎(昭和○年○月○日生)に遺贈し、その余のすべてを遺言者の姉山本月子(昭和○年○月○日生)に相続させる。

第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、第1条の場合には夫鈴木一郎を、第2条の場合には遺言者の姉山本月子を指定する。

2 第2条の場合における遺言執行者は、不動産の売却処分・登記手続き、預貯金その他一切の金融資産の解約、名義変更、払戻しなど、本遺言の執行に必要な一切の権限を有する。

令和〇年〇月〇日 遺言者 鈴木 陽子 (実印)

実務的アドバイス:「相続させる」と「遺贈する」の使い分け

遺言書では、財産を渡す相手が「法定相続人」であるか否かによって、用いる言葉を正確に使い分ける必要があります。

  • 「相続させる」:ご自身の法定相続人に財産を遺す場合に使用します(例:夫からみて自身の弟、妻からみて自身の実姉)。
  • 「遺贈(いぞう)する」:法定相続人ではない「第三者や配偶者側の親族」に財産を遺す場合に使用します(例:夫からみて妻の姉、妻からみて夫の弟)。 この使い分けを誤ると、のちの手続きにおいて実務上の不備が生じることがありますので、文例の通り厳格に区別してご記載ください。

4. 交差型遺言を設計する上での「厳格なルール」

夫婦で交差型(たすき掛け)遺言や予備的遺言を準備する際には、法律に定められた極めて厳格なルールを守る必要があります。

① 共同遺言の絶対的な禁止(民法975条)

夫婦仲が良く、お互いの意思が一致していたとしても、「1通の同じ用紙に、夫婦2人の遺言を共同で連名して書き込むこと」は法律で厳しく禁止されており、これに違反した遺言書はすべて無効となります。 遺言は、本人の完全な自由意思で行われるべきものであるため、お互いの影響を排除しなければならないからです。したがって、必ず夫用、妻用と別個の書面として作成してください。

② 全文・氏名の自筆(手書き)と押印

自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、および氏名を自書し、印を押さなければなりません。パソコンでの作成や他人の代筆は無効です。押印については、認印や指印でも法律上は有効ですが、後日の紛争を防ぎ、本人の真意を担保するためには、役所に登録している「実印」を使用することが実務上、最も安全で確実です。

③ 日付は「年月日まで」正確に

日付も年月日まで正確に自書する必要があります。「〇年〇月吉日」などのように客観的な日が特定できない曖昧な書き方は、最高裁判所の判例により「無効」と判断されますので絶対に避けてください。

5. 自筆証書遺言の安全性・信頼性を高める法務局の「保管制度」

自筆証書遺言には、「万が一のときに発見されない」「紛失や廃棄のリスクがある」「親族によって偽造や改ざんを疑われる」といったデメリットがありました。

これらのリスクを解決するため、2020年7月より開始された「自筆証書遺言書保管制度(法務局での保管)」の利用を強くお勧めいたします。 この制度は、作成した無封の遺言書を、本人が直接法務局に持参し、1件3,900円の手数料を支払うことで、法務局が原本を安全に保管してくれるサービスです。

【保管制度を利用するメリット】

  • 紛失、改ざん、破棄のリスクが完全になくなります。
  • 法務局への申請時に、遺言書保管官が「民法が定める外形的な様式不備(日付や署名、押印の有無)」を確認してくれるため、形式不備による無効リスクを最小限に抑えられます。
  • 通常、自筆証書遺言は死後に家庭裁判所で「検認(けんにん)」という非常に時間と手間のかかる手続きが必要ですが、法務局で保管された遺言書は、この検認手続きが「完全に不要」となり、死後すぐに迅速な金融手続きや登記手続きに進むことができます。

6. まとめ

交差型(たすき掛け)遺言と予備的遺言の組み合わせは、残された生存配偶者の老後の生活を確実に護るだけでなく、ご夫婦双方が他界された後のご親族間における無用な感情的対立を防ぐための、極めて理にかなった法的な備えです。

しかし、二次相続まで見据えた財産の区別や、予備的遺言における正確な文言の使い分け、遺言執行者の指定などは、不備なく設計するには高度な法律知識を要する場合が少なくありません。 そのため、大切なご家族や親族の未来に確かな安心を遺すためには、形式面・内容面ともに最も無効リスクが低く安全な「公正証書遺言」の作成を最終的な目標とされることを強くお勧めいたします。まずは取り急ぎ自筆証書遺言で安心を確保し、その後に万全な公正証書へと移行されるのが、実務において最も推奨される二段階の相続対策です。

交差型遺言の準備や、ご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

About

この記事について

公開日
2026.08.28
内容確認日
2026.08.28
監修
荒関誠人(行政書士・中小企業診断士)

参考文献・出典

  • 民法(共同遺言の禁止〔民法975条〕・自筆証書遺言の方式)/自筆証書遺言書保管制度(法務局)

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