【遺言文例とルール】子どものいないご夫婦が今すぐ手書きできる、最もシンプルな自筆証書遺言

「子どもがいない私たち夫婦には、万が一のことがあってもお互いに全財産が残るはず」という考えは、相続実務において最も陥りやすい誤解の一つです。遺言書がない場合、法律上、残された配偶者だけでなく、亡くなった方の兄弟姉妹(あるいはその子どもである甥や姪)も共同相続人となり、彼らを交えて遺産分割協議を行う義務が生じてしまいます。
しかし、兄弟姉妹には法律上の最低限の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」が一切認められていません。したがって、「すべての財産を配偶者に相続させる」という旨の遺言書がたった1通手書きであるだけで、残された配偶者を不要な紛争や煩雑な手続きから完全に守ることができます。
今回は、将来的な「公正証書遺言」などを作成する前段階として、万が一の事態に備え、今すぐご自宅で「取り急ぎ書く」ことができる極めてシンプルな自筆証書遺言の文例と、守るべき法律上のルールを解説いたします。
1. 取り急ぎ書く「シンプルな自筆証書遺言」の文例
自筆証書遺言は、財産の目録をパソコンで作成して添付することも認められるようになりましたが、「財産がそれほど多くない場合」や「取り急ぎ緊急で書きたい場合」は、目録すら作成せず、紙1枚に数行を手書きするだけで完成する以下のシンプルな文面が最も確実で実務的です。
遺言書
遺言者(※ご自身の氏名)は、その所有する不動産、預貯金、有価証券その他一切の財産を、遺言者の配偶者である(※夫または妻の氏名、および生年月日)に相続させる。
令和〇年〇月〇日 遺言者 (※ご自身の署名) (印)
※「一切の財産」と包括的に表現しておくことで、遺言書作成後に口座の変更や新たな財産の取得があった場合でも、書き直すことなくすべての遺産をカバーすることができます。
2. 自筆証書遺言を「有効」にするための4つの鉄則
自筆証書遺言は、費用をかけずにいつでも作成できる手軽さがある反面、民法が定める厳格な様式を満たしていなければ、せっかく書いた遺言書が「すべて無効」になってしまう極めて大きなリスクを孕んでいます。 書く際には、以下の4つのルールを必ず徹底してください。
- 全文を「手書き(自書)」で書くこと パソコンやワープロで作成した本文や、家族や第三者に代筆してもらったものは法律上一切認められず無効となります。必ず、遺言者本人が自分の手で紙にペンで書き記してください。
- 日付を「年月日まで」正確に手書きすること 日付は遺言能力の有無や、複数の遺言書がある場合の先後関係を特定するために不可欠です。本人の手書きで「令和〇年〇月〇日」と正確に記載してください。なお、「〇年〇月吉日」などのように客観的な日が特定できない曖昧な書き方は、最高裁判所の判例により「無効」と判断されますので絶対に避けてください。
- 署名(氏名)を手書きすること 戸籍上の本名でなくても本人を特定できれば有効とされますが、のちの混乱や争いを防ぐためにも、戸籍通りの氏名を正確にフルネームで手書きすることが実務上最も安全です。
- 押印をすること 署名の横に必ず本人の印章を押印してください。法律上は認め印や指印でも有効とされていますが、遺言書としての真正さや証明力を高めるためには、役所に登録している「実印」を押すことが極めて重要です。
3. 夫婦での「共同遺言」は絶対に禁止
お互いに思いやりを持つご夫婦であっても、「1枚の同じ用紙に、夫婦2人の遺言を連名で書き込むこと」は民法(民法975条)で厳格に禁止されており、これを破ると両方の遺言がすべて無効になります。
遺言は、本人の完全な自由意思によるものである必要があるため、相互の影響を排除する目的から、必ず夫用、妻用と「別個の用紙」に1通ずつ、完全に分けて作成してください。
4. まとめ
自筆証書遺言は、費用をかけずにいつでも作成でき、かつ法律で判断能力があると認められる限り、何度でも内容を書き換えることが可能です。
そのため、「まずは取り急ぎ、ご自身の手で簡易な1枚を作成して安心を確保し、その後、時間をかけて専門家に相談しながら、より安全で確実な公正証書遺言を作成する」という二段階の対策を講じることが、実務において極めて賢明な判断と言えます。
ご夫婦の将来を守るための遺言書作成に関するご不安や、ご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。
About
この記事について
- 公開日
- 2026.08.26
- 最終更新日
- 2026.08.28
- 内容確認日
- 2026.08.13
- 監修
- 荒関誠人(行政書士・中小企業診断士)
参考文献・出典
- 民法(自筆証書遺言の方式・共同遺言の禁止〔民法975条〕)
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