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遺言・終活

【遺言文例とルール】遺贈寄付における遺言書の設計と実務上の重要ルール

遺言書を作成することによって、ご自身の財産の全部または一部を、特定の個人だけでなく公益法人、認定NPO法人、学校法人、地方自治体などの団体に無償で譲与・寄付することを「遺贈(いぞう)寄付」と呼びます。 近年、おひとり様世帯の増加や社会貢献意識の高まりを背景に、人生の集大成として遺贈寄付を選択される方が増えています。

遺贈寄付の意思を確実に死後へつなげ、手続きに関わる方々に不必要な混乱や負担を生じさせないためには、法的に不備のない遺言書の文言(文例)を設計し、特有のルールを正しく理解しておくことが極めて重要です。今回は、遺贈寄付において実務上、特に重要となる遺言書の記載文例と注意すべきルールについて、客観的な法制度に基づき解説いたします。

1. 遺贈寄付における「特定遺贈」と「包括遺贈」の選択基準

遺言によって財産を譲る方法には、財産を個別具体的に指定する「特定遺贈(とくていいぞう)」と、遺産の全部または一定割合を指定する「包括(ほうかつ)遺贈」の2種類があります。

  • 特定遺贈:受遺者(財産を受け取る人)は、特定された具体的な財産のみを取得します。原則として被相続人の債務(借金など)を当然に承継することはなく、遺産分割協議に直接関与する必要もありません。
  • 包括遺贈:包括受遺者は民法990条により「相続人と同一の権利義務を有する」と定められています。そのため、プラスの財産だけでなく借金などの債務(消極財産)も当然に引き継ぐことになります。また、他に相続人がいる場合には、共同相続人として遺産分割協議に加わらなければなりません。

寄付先となる多くの公益団体やNPO法人は、予期せぬ債務を引き継ぐリスクや、共同相続人との遺産分割協議に伴う実務的負担を避けるため、通常の包括遺贈による寄付の受け入れを原則として辞退する傾向があります。 したがって、遺志を不備なく実現させるためには、対象財産を明確にした「特定遺贈」を選択することが実務上の原則となります。

2. 寄付金額を指定して遺贈する場合の具体的な文例とルール

遺贈寄付において、一定の金額(例:○○万円)を指定して寄付する場合、そのお金を「預貯金全体から優先して支出するのか」、あるいは不動産や株式なども含む「遺産全体から支出するのか」によって、文面と法的効果が異なります。

① 預貯金から特定の金額を支出する文例

(文例)

第1条 遺言者は、遺言者の預貯金の中から優先して300万円をNPO法人○○(受遺者となる法人の名称、所在地等)に遺贈する。

第2条 遺言者は、前条の遺贈による残余の預貯金を鈴木二郎(他の帰属先の名称等)に遺贈する。

実務上の効果: 預貯金から優先して300万円を寄付することを明確にし、さらに第2条のように書き添えることで「預貯金総額から300万円を差し引いた残余の帰属」についても争いの余地なく明快に定めることができます。

② 遺産全体から特定の金額を優先支出する文例

(文例)

第1条 遺言者は、遺言者の遺産の中から優先して300万円をNPO法人○○に遺贈する。

実務上の効果: 原資を「預貯金」に限定せず「遺産の中から」と指定します。これにより、仮に相続開始時に預貯金の額が300万円未満であっても、遺産に含まれる不動産や有価証券を売却・処分(換価)して300万円を捻出し、優先して支出することができます。 ただし、この場合は、不動産や有価証券など他の種類の財産をもらう他の受遺者(または相続人)も、それぞれの取得割合に応じて按分してこの300万円の支出分を負担する(各自の取得分が減る)ことになります。

③ 預貯金が指定額に満たなかった場合に他の相続人に負担させる文例

(文例)

第1条 遺言者は、遺言者の預貯金の中から優先して300万円をNPO法人○○に遺贈する。ただし、預貯金の額が同額に満たない場合には、その不足額を第○条で不動産を遺贈(相続)するとした鈴木二郎(他の受遺者または相続人の氏名等)に負担させる。

実務上の効果: 預貯金が300万円に満たない場合の不足分の支払い義務を、あらかじめ不動産等の他の高額資産を引き継ぐ受遺者(相続人)に引き受けさせる(負担させる)ことができます。

④ 割合または特定の口座を指定して遺贈する文例

残高不足によるトラブルを避けるため、金額の指定ではなく、割合や特定の口座そのものを指定して寄付する方法も有効です。

(割合指定の文例)

第1条 遺言者は、遺言者の預貯金の全部(または○分の1)をNPO法人○○に遺贈する。

(特定口座指定の文例)

第1条 遺言者は、遺言者の所有する預貯金のうち、P銀行Q支店に預託してある預金の全部(または○分の1)をNPO法人○○に遺贈する。

実務上の効果: 割合指定であれば、相続時の残高の多寡に関わらず割合に応じて引き渡されるため、資金不足への対応を定める必要がありません。また、特定の銀行・支店の口座を指定しておくことで、それ以外の財産については遺留分を侵害しない限りで自由に他の承継先を決めることができます。

3. おひとり様が債務清算を伴って遺贈寄付を行う場合の文例

身近な親族(推定相続人)がいない「おひとり様」が、生前の医療費や施設利用料、死後の葬儀・埋葬費用などを清算した上で、残った財産を複数の公益団体などに段階的に寄付したい場合に適した、実務上極めて安定した文例です。

(文例)

第1条 遺言者は、遺言者の有する財産から、後記の遺言執行者に遺言者の次の費用を優先して支払いをさせる。

(1)遺言者の医療費、施設利用料、公租公課などの未払いの債務

(2)遺言者の葬儀及び埋葬等の費用

(3)後記遺言執行に必要な費用及び遺言執行者の報酬

第2条 遺言者は、その所有する財産から前条に定める遺贈、債務等を控除した残金がある場合には、学校法人○○にその2分の1を、その残余を札幌市にそれぞれ遺贈する。

2 前項により遺贈する財産の使途については、学校法人○○では○○(例:運動部活動の維持や整備)のために使われること、札幌市では○○(例:犬猫の保護や育成)のために使われることを希望する。

第3条 遺言者は,本遺言の執行者として、荒関誠人(昭和〇年〇月〇日生。住所札幌市白石区菊水4条2丁目1番6号政陽ビル1F。職業 行政書士)を指定し、本遣言実現のための全ての権限を付与する。

解説: 最優先の寄付額を特定遺贈として定め、次に生じた負債や死後事務費用をすべて清算させた上で、なお残余金がある場合に次の寄付先に割合で分配する、おひとり様の実務に即した包括的な設計例です。

4. まとめ

① 遺贈寄付の実務においては、受け入れ側の団体に債務の引き継ぎや遺産分割協議への参加といった負担をかけないよう、「包括遺贈」を避け、具体的な財産や金額を指示する「特定遺贈」を基本に据えることが強く推奨されます。

② 寄付の対象が特定の金額である場合には、その資金源(特定の預貯金口座、または不動産等を含む遺産全体)を明確に記述し、残高が不足した際の調整方法(他の受遺者の負担や割合での遺贈)についてもあらかじめ定めておく必要があります。

③ おひとり様等で財産を社会還元させたい場合は、遺贈の優先順位を明確にし、自身の債務や葬儀費用などの死後事務費用を清算した上で残りを分配する段階的設計を行い、これを確実に執行させる「遺言執行者」をあらかじめ指定しておくことが、遺志を安全に実現させるための最良のアプローチとなります。

遺言書の作成準備や、ご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

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この記事について

公開日
2026.08.16
内容確認日
2026.08.16
監修
荒関誠人(行政書士・中小企業診断士)

参考文献・出典

  • 民法第990条(包括受遺者の権利義務)

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