「包括遺贈」と「特定遺贈」の違いとは?遺言書作成で知っておくべき実務上の論点と選び方の基準

遺言書を用いて、法律上の「相続人」以外の第三者(内縁の配偶者、お世話になった知人、あるいは社会貢献を目的とした慈善団体など)に財産を譲りたいとき、実務において選択されるのが「遺贈(いぞう)」という法的手続きです。
同じ遺贈であっても、財産の指定方法によって「包括(ほうかつ)遺贈」と「特定(とくてい)遺贈」の2つに大別され、どちらを選択するかによって受遺者(財産を受け取る人)が負う責任や手続きの手間は劇的に異なります。
今回は、これら2つの遺贈の法的な定義を整理した上で、債務の承継や遺産分割協議への関与、放棄手続きといった実務上避けては通れない重要論点を解説いたします。
1. 包括遺贈と特定遺贈の基本定義
まずは、それぞれの遺贈がどのような方法で財産を指定するのか、その基本について解説します。
① 特定遺贈とは
目的物を具体的な財産に指定して遺贈する方法です。「〇〇市〇〇町一丁目の自宅土地建物を遺贈する」「A銀行B支店の普通預金を遺贈する」といったように、譲り渡す個々の財産が具体的に特定されています。
② 包括遺贈とは
特定の財産を個別に指示せず、遺産の全部、または「遺産の3分の1」といった抽象的な割合を指定して遺贈する方法です。
- 全部包括遺贈の例: 「遺言者の有する財産の全部を〇〇に包括して遺贈する」
- 割合的包括遺贈の例: 「遺言者の有する財産の3分の1を〇〇に包括して遺贈する」
2. 実務上の決定的な3つの違い
同じ「遺贈」という名称ですが、法的な性質においては全く異なるアプローチを取るため、以下の3点において大きな違いが生じます。
① 消極財産(借金などの債務)を引き継ぐか
民法上、包括遺贈の受遺者(包括受遺者)は「相続人と同一の権利義務を有する」(民法990条)と定められています。そのため、プラスの財産だけでなく、被相続人が遺した未払債務や借金といったマイナスの財産(消極財産)も、指定された割合に応じて当然に引き継ぐことになります。
これに対し、特定遺贈では原則として指定された具体的なプラスの財産のみを引き継ぐため、被相続人の債務を当然に承継することはありません。
【実務的知識】「所有する」と「有する」の使い分け 実務において、特定遺贈をする場合は、プラスの資産のみを対象とするため「遺言者が所有する自宅不動産を遺贈する」と表記するのが正確です。一方、包括遺贈をする場合は、債務も含めた承継となるため「遺言者が有する一切の財産を包括して遺贈する」と使い分けられます。
② 遺産分割協議に参加する必要があるか
割合的包括遺贈がなされた場合、包括受遺者は相続人と同様の地位に立つため、遺産が「共有状態」となります。この関係を解消して具体的に誰がどの現物財産を取得するかを決めるためには、包括受遺者も含めて「遺産分割協議」を行わなければなりません。
一方、特定遺贈の場合は、指定された財産は遺言の効力発生と同時に受遺者に帰属し、最初から遺産分割の対象外となるため、受遺者が遺産分割協議に加わる必要はありません。
③ 遺贈を「放棄」する際の手続きと期限
財産を譲り受けることを拒否(放棄)したい場合の手続きも異なります。 包括受遺者は、相続人と同様の扱いを受けるため、「自己のために遺贈があったことを知った時から3か月以内」に、家庭裁判所へ放棄の申述を行う必要があります。
これに対し、特定遺贈の放棄には期間の制限がありません 。受遺者は、いつでも相続人(遺贈義務者)に対して「受け取りを拒否する」という一方的な意思表示を行うだけで、放棄を完了させることができます。
3. 「遺贈寄付」を行う場合はどちらを選ぶべきか
近年、自身の財産を特定のNPO法人や公益団体、大学や自治体などに寄付する「遺贈寄付」が注目を集めています。この遺贈寄付を設計する際、包括遺贈を選択することは実務上、極めて大きなリスクを伴います。
包括遺贈をしてしまうと、受け取り手である寄付先(団体)が「予期せぬ債務(借金)を引き継ぐリスク」に晒されるだけでなく、残された相続人らとの「遺産分割協議に直接参加する義務」を負うことになります。これは寄付先にとって非常に重い負担となるため、包括遺贈による寄付は、受入れ自体を拒否される可能性が極めて高くなります。
そのため、社会貢献を目的とした遺贈寄付を行う場合には、譲るべき財産を明確にした「特定遺贈」を選択することが実務上の原則となります。また、不動産の寄付を希望される場合は、事前に対象不動産を売却・現金化してその現金を遺贈する「清算型遺言」を設計しておくことが、手続きを円滑に進める上で推奨されます。
4. まとめ
遺産の一部、または全部を特定の誰かに遺したい場合、その相手が相続人であるか否か、また負債の有無や手続きの手間を考慮して、包括遺贈と特定遺贈のどちらが適しているかを慎重に選択しなければなりません。
誤った文言で作成してしまうと、受遺者に過度な義務を負わせてしまったり、親族間での遺産分割手続きが膠着してしまったりする原因となります。ご自身の真意が最も不備なく実現されるよう、正確な文言を設計しておくことが何よりも重要です。
遺言書作成のご準備や、ご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。
About
この記事について
- 公開日
- 2026.09.03
- 内容確認日
- 2026.09.03
- 監修
- 荒関誠人(行政書士・中小企業診断士)
参考文献・出典
- 民法第990条(包括受遺者の権利義務)
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